昭和52年、国立武蔵療養所(現在の国立精神神経センター)のアルコール病棟の家族会に出席した時のことである。ある家族の方が、「私は主人がアルコール依存症になってよかったと思っている。そうでなければ、今のようにお互いに理解し合える夫婦にはなれなかったかったと思う」と言われた。病気はマイナスでしかないと思っていた私は、目が開かれる思いであった。それから後も、この病気になってよかったというアルコール依存症の人やご家族にたくさん出会った。
つい最近も、30年アルコールを止めている人の話を聞く機会があった。この人はかってはとてもひどいアルコール依存症者であったが、AA(アルコホリクス・アノニマス)という自助グループに参加して、飲まない生活を続けておられる。AAには、回復のための12ステップがあり、それに従って生きている自分は、それを知らない人よりもはるかに安定した生き方をしていると思うと言われた。
ナポレオン・ヒルは、逆境や挫折には、その大きさと同等かそれ以上の幸福の種が宿っていると言っているが、そのことを体験的につかんでおられるのである。
病気や失敗や災難などに出会ったときに、そこでしか得られないプラスがあることを知っているのと知らないのとでは、大きな違いがある。「せっかく病気になったのだから、病気が与えてくれるいいものを、余すところなく手に入れようではないか」というわけである。
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