心療内科・神経科・精神科 アルコール依存症専門 練馬区豊玉上2-21-13 第3桜台ファミリーマンション2F TEL.03-5912-1164
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病気が与えてくれるもの
 昭和52年、国立武蔵療養所(現在の国立精神神経センター)のアルコール病棟の家族会に出席した時のことである。ある家族の方が、「私は主人がアルコール依存症になってよかったと思っている。そうでなければ、今のようにお互いに理解し合える夫婦にはなれなかったかったと思う」と言われた。病気はマイナスでしかないと思っていた私は、目が開かれる思いであった。それから後も、この病気になってよかったというアルコール依存症の人やご家族にたくさん出会った。
 つい最近も、30年アルコールを止めている人の話を聞く機会があった。この人はかってはとてもひどいアルコール依存症者であったが、AA(アルコホリクス・アノニマス)という自助グループに参加して、飲まない生活を続けておられる。AAには、回復のための12ステップがあり、それに従って生きている自分は、それを知らない人よりもはるかに安定した生き方をしていると思うと言われた。
 ナポレオン・ヒルは、逆境や挫折には、その大きさと同等かそれ以上の幸福の種が宿っていると言っているが、そのことを体験的につかんでおられるのである。
 病気や失敗や災難などに出会ったときに、そこでしか得られないプラスがあることを知っているのと知らないのとでは、大きな違いがある。「せっかく病気になったのだから、病気が与えてくれるいいものを、余すところなく手に入れようではないか」というわけである。

人生は骨折り仕事
 内村鑑三のお弟子さんだった石原兵永先生の著に、「身近に接した内村鑑三」という本があり、以下のようなことが書かれています。
 石原先生が青山師範を出て、小学校の先生になった時のことです。「学校に勤めても、つまらぬ仕事や雑用に自分の時間と全精力を用いるのは、もったいないような気がするのですが。」と信仰の恩師、内村鑑三先生に言うと、内村先生はたちまち目をむき、声をはげまして、言われました。
 「それは君は誤っている。人生の大部分はドラッジャリー(骨折り仕事)である。重荷を負って牛車を強く引かねばならぬ。それが人生であるのだ。イエスもそれをなされた。もし君にその仕事が堪えられないのならば、君はどこへ行っても役に立たぬ。それをいやがってはだめだ。君がやらなければ、誰かがやらなければならないではないか。同じいやな仕事を、君がやるときには、正しく勇ましくそれをやってのけねばならぬ。その仕事を君がやらないのならば、君はその仕事について論ずる資格がないのだ。かく牛車を引いて得た自由でなければ貴くないのだ。今の時からそんなことを言うのは、少し生意気だ。よっぽどそこには貴族根性、怠け根性が入っているよ。」(石原兵永著「身近に接した内村鑑三」上 189頁)
 さらに石原先生は次のように書いておられます。「このときからすでに半世紀余りにもなるが、この教えの貴さが、そして真剣に叱って下さった先生の深い愛のありがたさが、年とともに身にしみる思いがする。」
 私の腹の底には、この話がストンと入っています。ですから雑用をいやだと思ったことはありません。机や椅子を並べるののも楽しみです。大量の手紙の発送もドラッジャリーの一つです。紙を折って封筒に入れ封をする。切手を貼る。宛名を印刷して貼る。どれも退屈な仕事です。けれども私にはやりがいのある大切な仕事です。
 仕事が終わると、私と子供3人分の夕食を作こともあります。これも大変楽しいものです。料理の本も増えてきて、積み重ねると70センチくらいになりました。
 内村鑑三先生の聖書講義に通った人の中に、桝本楳子という人がいました。山形県小国町の山中にある基督教独立学園という高校で、百歳まで書道を教え、若い高校生達に大きな影響を残しました。佐々木征夫著「うめ子先生」によると、内村先生は厳しい人で、家事や子供のことを完璧にやらないで集会に来た婦人達はそのまま帰されたといいます。うめ子先生は、朝4時に起きてなすべきことを全部終えてから集会に行ったそうです。
 神経症のすぐれた治療法である森田療法でも、雑用を大切にしています。食事の支度、雑巾掛け、草取り、水やりなど、常に何かをしている生活を勧めているのです。周囲に気が向くようになり、雑用で忙しくてたまらなくなると、神経症は良くなっていきます。
 骨折り仕事には、精神を整える作用があります。雑用に精出すことによって、心の痛手を乗り越えた人は実に多いのです。辛い思いを癒すには、目の前にある雑用を片づけていくのがもっともよいのです。それに熱中することによって、いやな思いはいつの間にか忘れ、きれいに片づいたまわりを見て気分もずっとよくなります。映画や旅行などの楽しみは、こんなことなら来なければよかったと思うことが、時にあるものです。しかし、骨折り仕事を片づけた後に、失望を感ずることは絶対にありません。気分はすっきりし、爽快な充実感を味わいます。
 生きがいもなく周囲に対して不満が絶えないときは、寸暇を惜しんで身を粉にして働くことがもっともいいことがしばしばです。
 誰にでもできる雑用を、真心を込めてやる楽しみを、今でも十二分に味わうことが出来るのは、石原先生のこの話が腹の中に入っているからです。
図書紹介
<傷つきやすい子供>という神話
 「子供時代に受けた傷が、その後の生き方を決定的に左右するという広く流布したフロイト的な考え方の誤謬を指摘し、逆に人がいかに豊かな可能性を持つか、人生がいかにチャンスに富んだものであるかを明らかにする。マイナスをプラスに転じ、自分で自分の人生を作り上げるにはどうしたらよいのかを説く好著」と、紹介されています。現在の自分がうまく生きられないのは、子供の時代に傷つけれた経験が癒されないで放置されているからだ、過去の経験を思い起こし、自分の中の傷つけられた「内なる子供」を癒さなければならないとする考えの誤りを指摘した本です。
 子供時代の自分を傷つけた「犯人」は、多くの場合、親です。トラウマ療法家によるカウンセリングを受けた子供は、いわゆる犯人に怒りの手紙を書くように勧められます。こうして親密だった親子関係が崩壊することもあるのです。本書にはそのような苦痛を味わった父親、母親の例も報告されています。ある父親は、娘が「セルフヘルプ12歩」とか「共依存」とか「アダルトチルドレン」とか、いろんな名前で呼ばれている運動で洗脳され、仲のいい親密だった家庭が今ではそうでなくなったと言っています。ある母親の報告は、セラピストによって、ありもしない性的虐待の記憶を作り出されたと思われる娘の話です。父親によって暴行されたというのです。そのストーリーも虐待の期間も、カウンセリングが進むにつれて、どんどん長くなっていったといいます。このような弊害が絶えないアメリカでは、親たちが「にせの記憶シンドローム協会」を作り、アダルト・チルドレンの非難に抵抗するようになったそうです。
 著者は「今生きにくいのは、子供時代に傷つけられた経験が癒されいないからだ」とするトラウマ療法家達の考えは、科学的根拠の全くないものだと主張しています。子供時代の経験が人生を決定づけるわけではありません。ひどい子供時代を送った人は、ひどい大人時代を送るとは限らないのです。「親がアル中、精神称障害、情緒不安定、暴力をふるう、虐待するなどの家庭で、仕方なく育つ人は、心と体に傷を受ける可能性がある。だが、そういう状況を挑戦として受け止め、それをバネに成長し、その後の人生で役に立つかもしれない資質を磨くこともできるのだ」。
 過去の記憶はしばしば真実と異なることがあります。記憶は操作し、偽造することができます。カウンセリングによって、ありもしない虐待をあたかもあったかのように思い出すこともあり得えます。記憶の実証的な研究家達は、「記憶は長期にわたって保存され、適切な処置によって再発見できる」という仮説を証明する事は出来ないでいます。セラピーによって幼児期の出来事だとして思い出したものは、それが本当に起こった事かどうかはあやしいのです。
 話はそれますが、記憶が当てにならないということは、犯罪捜査の領域で大きな問題になっています。記憶に基づく証言が、事実とずれることが大変多いことが分かってきたからです。(菊野春男著「嘘をつく記憶」講談社)
 トラウマ療法家たちは、過去の傷つけられた自分と直面し、痛みの感情を再発見することによって、心の健康を取り戻すことができるというが、それは科学的に証明されたものではないというのが著者の主張です。逆に記憶を抑制(抑圧ではない)し思い出さないことが保護作用として働くことがあります。辛い記憶を思い出さないことで心のバランスを保っている人もいるのです。
 著者は、自分の主張を多くの研究結果を紹介しながら裏付けています。そして現在の自分の問題を、過去の人のせいにしないで、自分のことは自分で責任を持つべきだと言っています。人には、困難な状況をバネにして成長する力があるのですから。
(ウズヌラ・ヌーバー著 丘沢静也訳 岩波書店 2600円)

森岡クリニック開院に寄せて

 私達がお世話になっている森岡先生が、西武池袋線の桜台にアルコール依存症の治療を中心にした心療内科・神経科の森岡クリニックを開設され、2月29日に開院記念パーティが行われるので、゛歩む会″の3人でお祝いに伺わせていただきました。
 階段を上ると、もう沢山の方が集まっていました。明るくゆったりした待合室。あちこちに並べられた鉢植えの胡蝶蘭に目を奪われているうちに、私達はどんどん通路の片隅に追いやられてしまいました。会場は溢れんばかりで、先生の豊富な実績とお人柄が忍ばれます。
 先生の挨拶に引き続き、来賓の挨拶もあり、知人を見つけては懐かしく語り合いました。おいしいお心尽くしのおもてなしに感謝しつつ、終わりそうもない会場を後にしました。
 先生は「アルコール依存症学習会」を毎週火曜日の午後7時から8時半迄行うということで、参加させていただきました。
 3月2日の学習会には、機関誌「仲間」の読者や本人の方も参加。お話の途中で質問や感想が飛び出し、あっという間に時間が過ぎ、内容の濃く有意義な時間が持てました。皆さんも参加されては・・・と思いました。
 豊富な経験と情熱、そして包容力。本当に有難く心強い限りです。森岡クリニックの学習会にはこれからも参加、勉強させていただきたいと思っています。
 森岡先生、健康に留意され、ますますの発展ご活躍を期待しています。
2004.3.8(K)          

 仲間と共に歩む会の機関誌「仲間」2004年3月号より、転載させていただきました。ありがとうございました。


オアシス

大都会の喧噪を離れ
下町風情豊かな通りの
とあるビル
緑の木々をあしらった
窓ガラス
階段をトントンと登り
ドアーを開ける
そこに オアシス がある
明るいなかにも、しっとりと落ち着いた
まるで森林浴でもするかのように
静かに流れる
モーツアルトのアイネ・クライネ・・・
日々の生活に疲れた人々を休めてくれる
経験豊かな院長のユーモアを交えた講義
ついつい引き込まれる
それぞれに体験を語り、そして聴く
人々は束の間の癒しを覚え
忘れていた笑顔も見える
一瞬、魔術にかかったかのように・・・
その心地よさが忘れられず
リピーターとなる
旧い考えも、生活も、生き方も
変わって行く
生き地獄に苦しんだ人も
人生に疲れ果てた人も
それらをバネにして
楽しく豊かで満たされた
日々を生きられる
この場は、オアシス と云うか
これぞ プレローマではなかろうか

 当院の家族教室に出席された兵庫県の森井悦子さんが、感想を詩に書いて送ってくれました。森井さんに心から感謝したいと思います。






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