第2章 アルコール関連身体障害

 アルコール依存症になると、長期にわたって大量の飲酒をするようになり、それがもとで様々な身体の病気を併発する。 身体障害を起こす原因は、二つある。ひとつは、アルコールの臓器毒性であり、もうひとつは栄養障害である。食事も取らないで飲みつづけることが多く、栄養の摂取が十分でなくなる。また、たとえ十分な食事をしていたとしても、多量のアルコールのために、吸収不良を起こすことが多い。これらのことから、栄養が不足しやすいのである。
 以下、アルコール依存症が原因で起こる身体疾患について述べてみたい。

肝障害

 アルコールによる肝障害は、脂肪肝、アルコール肝炎、肝硬変というふうに悪化していく。
 脂肪肝は、肝細胞内に脂肪がたまり、肝臓が大きくなっている状態で、断酒によってよく治る。
 アルコール肝炎は、肝細胞が変性、壊死を起こし、肝腫大、黄疸、食欲不振、悪心、嘔吐、全身倦怠感などが生じ、時には死亡することがある。
 肝硬変は、肝障害の終着駅と言われている疾患である。肝細胞の広汎な壊死が起こり、その代わりに肝臓としての働きをしない結合組織の増生がみられる。肝臓ははじめ腫大し、後には萎縮する。黄疸、脾腫、手掌紅班、クモ状血管腫、食道静脈瘤、女性様乳房、腹水、浮腫、肝性昏睡など重篤な症状を示し、死亡率の高い病気である。肝硬変になると、たとえ断酒しても完全には回復しない。

アルコール膵炎

 強烈な上腹部痛や背部痛が特徴である。この痛みには鎮痛剤が効かないことが多い。慢性になると、膵臓は萎縮し、拡張した膵管内には、膵石がみられる。糖尿病の原因となる。

胃腸障害

  • 急性胃粘膜病変・・・アルコールの過飲により、胃粘膜に浮腫、びらん、小潰瘍、出血を生じ、上腹部痛、吐き気、嘔吐、吐血を起こす。断酒によって数日のうちによくなる。
  • 胃十二指腸潰瘍・・・潰瘍の発生にアルコールが関与するかどうかは分かっていない。大量のアルコールは潰瘍の治療に悪影響を及ぼす。食後や空腹時の腹痛、潰瘍部位からの出血がみられる。ひどくなると穿孔して穴があくことがある。
  • マローリー・ワイス症候群・・・食道下部から胃上部の粘膜に裂創が生じ、大量の吐血をする。大量飲酒の後、吐き気、嘔吐を繰り返した後起こることが多い。
  • 吸収不良症候群・・・アルコール過飲者はたとえ十分な食事をしていたとしても、腸管からの吸収不良や下痢などによって、ビタミン不足をはじめとする栄養障害に陥りやすい。

アルコール心筋症

 長期大量飲酒によって、心臓が肥大して、不整脈、体動時の呼吸困難や動悸、夜間の突発性呼吸困難等がみられる。断酒によって急速によくなるが、末期になると断酒しても回復しない。

アルコール・ミオパチー

 主として、手足の筋肉がやられる。大量のアルコール摂取後、急激に骨格筋の筋痛、脱力、浮腫、壊死を生じる急性型と、徐々に体幹に近い筋肉の萎縮と脱力が起こってくる慢性型がある。

脳神経障害

  • ウェルニッケ脳炎・・・ビタミンB1の欠乏によって起こる。眼球運動障害、歩行障害、意識障害が主な症状である。しばしばコルサコフ症候群、多発神経炎を合併する。
  • コルサコフ症候群・・・物覚えがひどく悪くなり、最近のことを少しも覚えられない。覚えていないことを聞かれると、作話をして答える。人物、場所、時間の見当がつかなくなる。
  • アルコール小脳変性症・・・小脳虫部のプルキンエ細胞が脱落する。歩行障害で始まることが多く、眼振、筋緊張低下、言語障害、振戦などが認められる。
  • 中心性橋髄鞘融解・・・橋中心部に脱髄がみられる。四肢麻痺、仮性球麻痺、意識障害などが見られ、死亡することも多い。
  • 多発神経炎・・・四肢特に下肢末端から始まる左右対称性の知覚鈍麻、痛み、しびれ感等が認められ、進行すると運動障害を伴うようになる。

ペラグラ

 ビタミンの一種であるニコチン酸の欠乏によって起こる。日光ににさらされる部位の対照性の皮膚炎、せん妄を中心とする精神症状、下痢などが主な症状である。治療が遅れると死亡する場合がある。

中毒性弱視

 徐々に視力が低下して、検査すると視野中心部に見えないところがあるのに気づく。断酒、栄養摂取によって改善する。老眼や近視で眼鏡をつくるときには、この状態がよくなってからにした方がよい。

胎児アルコール症候群

 妊娠中に大量のアルコールを引用していた母親から、特異的な顔貌、心臓その他の臓器の奇形、発育障害、知能障害などの中枢神経障害を持った子供が生まれることが知られている。また、アルコール依存症の母親の出産では、死産の率が高い。

糖尿病

 インスリンを産生している膵臓が、アルコールによって侵され、インスリン不足になることによって起こる。検査では、高血糖と尿糖がみられ、口渇、多飲、多尿、空腹感、体重減少等の症状が出る。コントロールが悪いと多くの合併症を生じやすくなる。重症になると、毎日、インスリンの注射が必要となる。

 アルコールを多飲する人には、口から食道にかけての癌、肝臓癌が多いと言われている。乳癌や大腸癌の危険もある。

外傷

 酩酊したときの事故、転倒、転落などにより、けがをしやすい。骨折や頭部外傷もみられる。また、アルコールてんかんでも、発作時に外傷を起こすことがある。

その他

 以上の外、アルコールが原因の疾患として、貧血、大腿骨頭壊死、低血糖、高尿酸血症等が知られている

この章のまとめ

 以上あげた病気はすべて、アルコールの飲み過ぎが原因で起こるものである。だからこれらの病気をよくするには、そのもとになっているアルコール依存症を治すことが大切である。身体の病気に目を奪われて、断酒することが二の次にならないように気をつけよう。

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